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横浜地方裁判所 昭和56年(行ウ)6号 判決

原告

西山敏子

右訴訟代理人

武井共夫

林良二

木村和夫

飯田伸一

被告

横浜市建築主事

阿部久二

右訴訟代理人

薄津芳

外三名

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一訴えの利益について

請求の原因1(一)ないし(三)の事実は当事者間に争いがないところ、被告は、原告には本件検査済証交付の取消し及び第二次確認の無効確認を求める訴えの利益がない旨主張するので、まずこの点について検討する。

1  本件検査済証交付の取消請求につき、原告は本件建物は法六五条該当建築物でないにもかかわらず、原告所有地との境界から民法所定の五〇センチメートルの距離を置かないで建築されており、同建物の火災の際には原告方居宅にも延焼の危険がある旨主張する。

法によれば、建築主は法六条一項の規定による工事を完了した場合においては、建築主事に対し、その旨を文書をもつて届け出なければならず(七条一項)、建築主事が右届出を受理した場合においては、建築主事又はその委任を受けた当該市町村若しくは都道府県の吏員(以下「建築主事等」という。)は、右届出を受理した日から七日以内に、届出に係る建築物及びその敷地が建築関係法令の規定に適合しているかどうかを検査し(同条二項)、建築主事等が右検査をした場合において、当該建築物及びその敷地が右法令の規定に適合していることを認めたときは、当該建築物の建築主に対して検査済証を交付しなければならない(同条三項)とされている。

しかして、建築関係法令において定められた建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する諸規定は、行政庁が法一条の目的を実現するため、建築確認や違反建築物に対する是正措置をなす際の最低の基準を定めたものと解される。したがつて、建築主事等は検査済証の交付に当たり、届出に係る建築物及びその敷地が技術的見地からして法一条の目的の実現のために定められた建築関係法令の規定に適合しているかどうかを検査する義務を負うのみであつて、右規定以外の他の法令の適合性まで検査する義務や権限を有するものではないと解すべきである。

よつて、当該建築物及びその敷地が私人間の権利義務を定めた民法の規定に適合するか否かの判断は建築主事等の権限の範囲に含まれるものではなく、本件検査済証交付もまた、本件建物の敷地と原告所有地との境界線の位置及び本件建物が同境界から民法二三四条一項所定の五〇センチメートルの距離が置かれているか否かについての判断をその内容とするものではないから、原告の主張する前記危険の虞れの有無は本件検査済証交付とは関わりなく、これによつてもたらされるものでもないというべきである。

2  次に、原告は、本件建物の建築工事の際、同工事に従事する者が原告所有擁壁を損壊し、同擁壁を危険ならしめた旨主張するが、前記のとおり、建築主事等は検査済証の交付に際し、建築物及びその敷地が建築関係法令に適合しているか否かを判断するに止まり、工事関係者による第三者に対する権利侵害の有無等は右判断の対象とはなりえないから、右損壊の有無等は本件検査済証交付とは関わりのないことであつて、これによつて原告が本件検査済証交付の取消しを求めるについて法律上の利益を有するということができないことは明らかである。

3  第二次確認の無効確認請求につき原告は、本件擁壁敷地には原告所有地の一部が取り込まれているところ、訴外会社には右土地部分を使用すべき何らの権原がない旨主張する。

法によれば、建築主事は、建築主から建築物等の工事等の計画の確認申請がなされた場合において、右申請に係る建築物等の計画が建築関係法令の規定に適合するか否かを審査し、右規定に適合することを確認したときは、その旨を文書をもつて当該申請者に通知しなければならない(六条三項、八八条一項)とされているのであつて、建築主事には右建築主が建築物等の敷地について適正な使用権原を有するか否かを判断する立場にはないことは前記検査済証交付についての説示のとおりであり、第二次確認についても、本件擁壁の敷地について訴外会社が適正な使用権原を有するか否かは確認の内容に含まれていないのである。そうすると、原告は第二次確認によつて法律上何らの不利益をも被つていないものといわざるをえない。

4  以上のとおり、原告は本件検査済証交付及び第二次確認によつて法律上保護された利益を侵害されるものではないから、原告は本件検査済証交付の取消し及び第二次確認の無効確認を求めるにつき、行訴法九条及び三六条の法律上の利益を有する者ということはできない。

二よつて、原告の本訴請求は、いずれも本案について判断するまでもなく、不適法な訴えであるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条を各適用し、主文のとおり判決する。

(古館清吾 吉戒修一 須田啓之)

物件目録〈省略〉

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